第71回全国へき地教育研究大会、山形で開催


(2022/10/19)印刷する

 山間部や離島など都会から離れた地域の教育の在り方を研究し、次の授業や学校生活にいかそうと活動する「全国へき地教育研究連盟(全へき連)」主催の全国大会が9月29、30の両日、山形県内の10会場で開かれました。山形での開催は38年ぶり。同連盟がすすめる「第9次長期5カ年研究推進計画(9次長計)」の4年目にあたり、3年間の研究を踏まえ、計画を評価・発展させていく重要な年と位置づけられています。71回となる今大会は昨年に続きオンラインも使った「ハイブリッド型」で実施され、多くの教職員らが参加しました。

 山形大会の研究主題は「ふるさとに夢や誇りをもって、未来の創り手となる子どもの育成」で、9次長計の主題と同じです。山形県内の公立小中学校は合計324校で、このうち、山間部地域と小規模校が占める割合は合計14.8%。近年になって人口減少と過疎化が進む地域が増え、県全体で統廃合が進み、あらたに複式学級が設置された学校が出てきているそうです。

 そうした状況下、複式学級の実践ノウハウや課題を共有していくことが大切だと考え、山間部学校や複式・小規模校などの特性を生かした学校運営や学習指導の充実が大切だという認識をあらためて自覚し、「未来の創り手となる子どもの育成」が研究主題となりました。「人間力に満ちあふれ、山形の未来をひらく、たくましい子を育てよう」との研究スローガンも掲げました。

初日に開かれた全体会の会場

 初日午前中の全体会で、高木光紀・大会実行委員長は、「毎日元気な子どもの輝く未来のために、実りある大会にしたい」と挨拶。全へき連の柿崎秀顕会長は、遠隔双方向による授業を含め複式授業の技術力の向上を呼びかけたうえ、「特色をいかした教育実践を全国の仲間に発信し、研究の輪を一層広げ、あらたな時代を築く礎としたい」と宣言しました。

 大会では記念講演として、クラゲドリーム館(加茂水族館)の奥泉和也館長が「加茂水族館 クラゲ展示の軌跡」と題して講演。来館者の激減という困難を乗り越え、クラゲ展示で世界的に有名になっていく歴史を、クラゲの知られざる生態と展示のむつかしさなどを交えて語り、会場は大いに盛り上がりました。

 午後は課題別に6つの分散会が開催され、全国・地域ブロックごとに12校が発表しました。発表校は、直島町立直島中学校(香川県)、加美町立鹿原小学校(宮城県)、⼤垣市⽴時⼩学校(岐阜県)、久慈市⽴久喜⼩学校(岩手県)、⽯垣市⽴吉原⼩学校(沖縄県)、中泊町⽴⼩泊⼩学校(青森県)、⼭添村⽴⼭添中学校(奈良県)、湯沢市⽴皆瀬⼩学校(秋田県)、留萌市⽴港北⼩学校(北海道)、秋⽥市⽴岩⾒三内⼩・中学校、道志村⽴道志中学校(山梨県)、真室川町⽴真室川あさひ⼩学校(山形県)。

中泊町立小泊小学校(青森県)の発表

 沖縄県の石垣市立吉原小学校の発表では、神里美沙緒教諭が登壇しました。宮古島などからやってきた島民の手によって開拓された吉原地区にある同校は児童数11人、保護者は全員が県外出身者だそうです。これまでは、人間関係の固定化や学習意欲に欠けるきらいがあり、「自己肯定感が低いことなどが課題で、受け身の姿勢になってしまっていた」と説明しました。

 そうした状況のもと、少人数や複式学級指導でガイド学習などを採り入れ、スノーケル体験や浄水場の見学、キビ刈り体験、三線演奏など、地域資源をいかして行ってきた、さまざまな体験的な教育活動について報告されました。

 遠く離れた地域との交流学習も積極的に採り入れ、山形県の鶴岡市立黄金小学校などとオンラインで地域を紹介し合ったということです。

 このような学習で、課題だった自己肯定感は大幅にアップ、成果が出たと報告されました。

 会場からは小規模校に通う親の不安について質問が。神里教諭は、石垣には小中学校が20あると説明したうえで、「この吉原地域も、自分たちで学校を作ったという思いが強く、地域の願いは学校の存続です。地域とともに歩む学校ということ。保護者と地域のみなさんで一生懸命にやっています」と答えていました。

 2日目の分科会では、県内8つの小中学校がそれぞれの公開授業のなかで、研究の成果と課題を発表しました。山形市立山寺小中学校、山形市立大曽根小学校、尾花沢市立福原小学校、真室川町立真室川北部小学校、大蔵村立大蔵中学校、川西町立玉庭小学校、鶴岡市立鼠ヶ関小学校、鶴岡市立温海中学校です。

 庄内、最上、置賜、村上と県内の分散した各地域にある小中学校を会場にしているため、オンラインを使ったハイブリッド型発表は分科会をもり立てました。

山形市立大曽根小学校
尾花沢市立福原小学校
鶴岡市立鼠ヶ関小学校

 「ともに学び合い、深め合う授業の創造」を主題とした研究をしているのは、大蔵村立大蔵中学校。分科会は、生徒が総合的な学習の時間に取り組んでいる「美しい村プロジェクト」の発表から始まりました。全校生徒を縦割りにしたグループを作り、大蔵村の発展を考え、外部に働きかける学習です。生徒は特産物のPR、村営住宅の改善、移動販売車の導入など、さまざまな観点から村の未来を捉えていました。昨年度は、村長や村役場関係者、村議会議員を相手に、提案や意見交換もしたそうです。

 発表を踏まえて、教員が授業の進め方について報告しました。ポイントは「生徒同士がお互いに支え合える関係」の構築です。少人数学習を採り入れることで、対話の機会が増え、多様な考えを引き出すことが出来たといいます。さらに教師は、一方的な講義形式の指導にならないよう、「生徒と生徒、生徒と教材をつなぐ存在」となることを目指しました。

 3年間の学習を終えた生徒の振りかえりについても報告がありました。学年を超えたグループ構成にしたことから「他学年と一緒に活動でき、新しい案がたくさん出て、考えるのが楽しかった」、自らの将来を見据えて「自分で課題を設定し、解決する能力を養えてよかった」という感想があったそうです。今後の課題については「アイデアの『実現性』を重視した活動を展開し、生徒の主体性をより一層高めていくこと」とまとめました。

大蔵村立大蔵中学校の生徒が学習成果を発表

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