「防災とジェンダー」を考える/防災科研研究員が講演


(2022/04/06)印刷する

 「防災とジェンダー」というタイトルのオンラインによる講演が3月5日にありました。講師は、ベルマーク財団と「防災科学教室」を共催している国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)の特別研究員、松川杏寧さん。災害や犯罪などの危機に際し、より安全・安心でいられる社会をめざす研究をしています。

 この講演は3月8日の国際女性デーにちなんで、公益社団法人ガールスカウト日本連盟が中高生向けに企画したオンラインイベント「私たちの世界、私たちの平等な未来」の内容のひとつ。他に「環境問題とジェンダー」「健康とジェンダー」についての講演もありました。

防災科研の特別研究員、松川杏寧さん(写真はいずれも「防災とジェンダー」オンライン講演会動画より)

 松川さんは子どもの頃の話から始めました。探究心が強く、小・中学生時代は恐竜に夢中。高校生時代は海洋生物学に興味を持ち、アメリカの大学で精神病理学や犯罪学を学びました。さらに日本の大学院での研究テーマとして選んだのが、犯罪を未然に防ぐための環境犯罪学。社会のために役立ちたいとの思いからでした。その在学中に東日本大震災が起き、被災地の研究にも関わりました。分かってきたのは「災害や犯罪によって、大変な目にあうのは社会的に弱い立場に置かれた人。根本的な原因を取り除くには、福祉の視点を持つことが大切」ということでした。

 そもそも「災害」とは何かを考えるため、松川さんは「無人島で大地震が起きたら、『災害』と呼ぶ?」と問いかけました。無人島では人の生活に被害は出ません。つまり無人島では「災害」は発生しないのです。

 「自然災害は原因(ハザード)と『ぜい弱性』が重なりあって生じます。被害が発生すると、災害と呼びます」と松川さん。では「ぜい弱性」とは? 松川さんによると、2010年に中米のハイチと南米のチリで、それぞれ地震がありました。マグニチュードで表現される地震そのものの規模はチリの方がずっと大きかったのですが、犠牲者数はハイチの方が大きく上回りました。普段から地震が多いチリに比べ、ハイチでは、貧困層が多かったこともあり備えが不足していたのです。ハイチは「ぜい弱性」が高かったのです。

 ハザードを小さくすることが「防災」。護岸工事や耐震工事などハード面の整備が該当します。一方、ぜい弱性を小さくすることは「減災」。ハードだけでなく、ソフト面からのアプローチも必要です。国民一人ひとりに災害を学んでもらう機会を設けるこのイベントも、そのアプローチの一つといえます。

 松川さんは、さらに質問を投げかけます。「家族と住んでいる車いすの人と、一人暮らしのめがねをかけた人、ぜい弱性が大きいのはどっち?」

 一見、個人の特質が問われているようですが、それだけではありません。もしスロープがあったら? 身近に助けてくれる人がいたら? つまり、社会のデザインや制度、価値観にも要因があるのです。ぜい弱性の大きさは置かれた環境との相互作用で決まるため、社会に責任があり、解決のためには社会全体を変えていく必要がある、と松川さんは強調します。


 松川さんは、阪神・淡路大震災、能登半島地震、東日本大震災の、発生後の状況の移り変わりについても説明しました。高齢者、障がい者、経済的な困窮者などの要配慮者は、災害によってより困った状況に置かれることが多かったそうです。加えて、女性については「様々な状況や環境によって、困難な状況に陥る可能性が男性より高いのが実情」でした。

 このような現状を改善するにはどうしたらいいか。松川さんは「みんなに出来ることは当事者力を高める、つまり防災リテラシーを高めること」だと訴えました。災害を正しく理解し、しっかり備え、行動できる自信を持つことが、防災リテラシーの向上につながります。

 災害時のトラブルのひとつとして、性犯罪の問題があります。松川さんによると災害時には、警察に認知されない性犯罪の件数が増えるそうです。

 こうした犯罪防止のためには、人と人とが普段からつながっていることが必要です。このようなつながりが社会に大切な資本であると捉える考え方を「ソーシャルキャピタル」といいます。日頃から、あいさつや地域コミュニティへの参加といった活動を促し、ソーシャルキャピタルが豊かな状態を保つことが犯罪を未然に防ぐことにつながるのです。

 「ガールスカウトの皆さんには、そのような活動を推進する人材になってほしいと期待しています」。女性研究者が発信するからこその説得力あるメッセージで、講演は締めくくられました。

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