霧箱で宇宙線が見えた!/静岡・水窪小で理科実験教室
(2024/11/26)印刷する
浜松市立水窪小学校(浮田佳昭校長、児童23人)は、愛知、長野との県境に近い静岡県北西部にあります。山あいを走るJR飯田線の水窪駅で下車すると、駅前の崖の下を天竜川の支流、水窪川が流れています。対岸が旧水窪町の中心部で、少し歩くと、山裾に水窪小の校舎が見えてきました。
同校で11月14日、理科実験教室が開かれました。講師は、茨城県つくば市にある「高エネルギー加速器研究機構(KEK)」の青木優美さん。素粒子物理を学んだ理学博士で、ベルマーク財団とのコラボは昨年に続き2回目です。
この日は、5、6年生14人が参加しました。まずはKEKが制作した「人形紙芝居」の動画を見て事前に学びます。宇宙はどのようにしてできたのか、何からつくられているのかなど、親しみやすいようパペットを使って、そもそもから解説した内容です。
すべての物をバラバラにしていくと、分子→原子→原子核と小さくなっていき、原子核は陽子と中性子からできています。その陽子や中性子は素粒子からできており、原子核の回りを飛ぶ電子も素粒子です。物質を構成する最小の単位が、素粒子なのです。
加速器は電子や陽子などを加速して、衝突させる装置です。KEKは高いエネルギーを生み出す大規模な加速器をつくり、動かしています。衝突して飛び出した素粒子の性質から、宇宙の始まり、物質のかたちやしくみなどを研究しています。
宇宙から地球に絶えず高速で降り注いでいる原子核や素粒子を宇宙線と呼びます。そのままでは見えませんが、地上に届いた宇宙線を目で見えるようにできるのが「霧箱(きりばこ)」です。19世紀に発明され、霧箱を使った実験を含め、これまで三つのノーベル賞が霧箱によって生まれました。
青木さんが「今も手のひらに1秒に一つくらい、素粒子は降っているのですよ。皆さんにも見てもらいましょう」と語りかけ、簡単な構造の霧箱を使った実験に取り組みました。
まずは各自が霧箱を組み立てます。
筒型の容器の側面と底を黒い画用紙と植毛紙(しょくもうし)でおおい、中に少量のアルコールを入れ、ラップフィルムでふたをし、ドライアイスで冷やします。
容器の上の方は気体になったアルコール、下の方は液体のアルコールがたまっています。ドライアイスで温度差をつくると、その間に過飽和状態(液体になりやすい気体の状態)ができます。この過飽和状態の中を宇宙線などの放射線が通ると、その通り道に沿ってアルコールが小さなしずくの状態になって、飛行機雲のように宇宙線が通った飛跡(ひせき)が見えます。懐中電灯で照らすと、飛跡が光の中に浮かび上がります。
児童たちは、それぞれ箱を組み立て、中をのぞき込みました。なかなか宇宙線を見ることができず、アルコールの量を調整したり、教室の少し暗い場所に移動したり。青木さんも手助けします。やがて、あちこちで「見えた!」という声が上がりました。
授業の最後に、青木さんは、動画を交え、KEKでの研究生活について話しました。大学院生のときに研究していた次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」のことや、実験装置の製作を含め、研究に明け暮れる日常、広大な施設内では自転車で移動することなどを伝えました。科学への好奇心を刺激された児童たちは、興味深そうに聞いていました。
児童たちからは「霧箱作りは楽しかった」「知らないことをわかりやすく説明してくれてよかった」「本で読んだことがくわしくわかりました」とお礼の言葉がありました。