熊本県・被災校ルポ


(2017/10/11)印刷する

 熊本地震から1年半近くがたった9月6日。熊本県小中学校長会の協力で、阿蘇外輪山内の2校を訪ねました。ともに、統合して新しい学校としてスタートした直後、地震に見舞われました。

 まず訪ねたのは、阿蘇市立阿蘇西小学校(井上利之校長、児童数132人)です。阿蘇神社を中心に栄えた地域ですが、じりじりと人口が減って、近年は小学校の統合が進められてきました。阿蘇西小は、同じ旧阿蘇町の尾ヶ石東部小、内牧小、山田小と一緒になる計画ですが、まずは尾ヶ石東部小と昨年4月1日に先行統合し、8日に阿蘇西小の校舎で新学期をスタートさせました。その6日後の14日にマグニチュード6・7の前震が襲います。「この時は阿蘇市内には大きな影響はなかった」と井上校長。16日の同7・3の本震が甚大な被害を与えました。地面に大きな亀裂が走り、壁はひびだらけ、あちこちが崩れ傾き、その後に続いた余震でも被害が拡大していきました。比較的被害のなかった旧尾ヶ石東部小の校舎に引っ越すことになりました。

 

解体直前の旧阿蘇西小校舎にお別れのドローン撮影=㈱島村組撮影、阿蘇西小

 5月9日、旧尾ヶ石東部小校舎で授業を再開しました。合併で広くなった校区の各地から通う児童たちにはスクールバスが欠かせませんが、道路はズタズタです。どうバスを運航するか、綿密な話し合いが続きました。小さい校舎に移ったため、教室が不足しました。図書室を二つに分け、片方を特別支援学級として使うといった知恵を絞っています。統合と地震による再引越しの混乱が重なり、備品台帳の整理もままなりません。

元気に泳ぐ〝復興金魚〟

 校舎の解体工事が進む阿蘇西小に、嬉しいニュースが届きました。玄関で金魚を飼っていたのですが、地震で水槽が壊れてしまいました。先生がそれを見つけたのは揺れの何時間も後。5匹中2匹が生きていたので、水が抜けずにすんだプールに放しました。解体を前に今年6月にプールを見に行ったところ、2匹とも元気に泳いでいました。10~15㌢だった体長も30㌢とコイのようなに大きくなり、余計にビックリです。今は現校舎の玄関の水槽に移されゆったりと泳いでいます。井上校長は「復興のシンボル」として大事に育てたいと話しています。

 新校舎の完成は来年12月の予定です。それまでは少し窮屈な学校生活が続きます。

 

元気いっぱい、運動会の練習

 


 

 南阿蘇村立南阿蘇中学校(坂梨正文校長、生徒数265人)は、長陽中、久木野中、白水中の3校が一緒になって開いた4月8日の開校式の8日後に本震に見舞われました。土砂崩れで道路は寸断され、近くの阿蘇大橋は崩落して犠牲者も出ました。旧長陽中を改修した真新しい校舎も大きな被害を受けました。記念碑は倒れ、体育館の天井の一部は落ち、図書室や家庭科室は棚が倒れ、物が飛び散りました。グラウンドはヘリコプターの発着場になり、体育館は1200人の避難者であふれました。

大型プリンター活躍中

 生徒は全員が無事でしたが、安否確認には手こずりました。統合直後のため、緊急連絡網もできておらず、電話もなかなか通じない。道路もズタズタ。旧3校からの先生がそれぞれチームを組んで、旧校区を足で回り、生徒一人ひとりの状況を確かめました。

 統合によって校区が大幅に広くなった南阿蘇中。8割の生徒がバス通学で、今も5台の大型スクールバスが活躍しています。大型バスをマイクロバスに切り替え、安全なルートを繋ぎ合わせて子どもたちを運びました。そんな子どもたちに助けの手も差し伸べられました。くまもと青陵高校が、被害が軽微だった学校施設を臨時の寄宿舎として借りて、12人の生徒がしばらく共同で暮らしました。

 生徒たちの心の問題にも気を配っています。被害を受けた家の子とそうでない子が混在している状況もあって、アンケートを取っても必ずしも素直に答えが返ってこないケースもあるそうです。「粘り強くケアしていきたい」と坂梨校長は話しています。

 そんな環境でも、子どもたちは元気です。グラウンドが長らく自衛隊の拠点となって使えなくても、中体連では大きな成果を収めました。統合で生徒が増えたため、校内合唱コンクールもできるようになりました。

 

全国から大きな励ましが寄せられた
玄関には非常持出袋も

 防災教育にも大きく力を入れています。抜き打ちのミニ訓練を実施したり、生徒一人ひとりが防災頭巾を常備したり。リアルHUG(避難所運営ゲーム)にも取り組んでいます。1~3年生が縦割りでいくつかの疑似家族を作り、与えられた条件を踏まえた上で避難所運営のプランを考え、実際にやってみます。震災の時に生徒たちが目にした家族の様子なども参考にして、様々な工夫も加えています。

 ベルマーク財団の支援を利用して購入した大型プリンターは中体連出場を励ましたり、お客さんを迎えたりする時の横幕制作などに活躍しています。長らく大きく迂回路を通らなければならなかった南阿蘇地区ですが、崩落した阿蘇大橋の隣の長陽大橋を通るルートが8月27日に開通しました。様々な問題を抱えながらも、復興の実感は子どもたちの心にも着実に刻まれています。

ベルマーク商品

KGスキンタッチコットン(男児)

ベルマーク検収

今週の作業日:3/25~3/29
1/30までの受付分を作業中