千葉・市川市立大和田小でDr.ナダレンジャーの防災科学教室


(2019/10/02)印刷する

 ベルマーク財団の教育応援隊のひとつ「防災科学教室」が今年も始まり、9月14日、千葉県の市川市立大和田小学校(青山了司校長、児童509人)で最初の教室が開かれました。国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)との共催で、今年度は全国16校で予定しています。

液状化現象を再現するDr.ナダレンジャー

 午後1時、体育館に児童、保護者、先生ら155人が集まりました。講師は、防災科研の研究員・納口恭明(のうぐち・やすあき)さん。あの「Dr.ナダレンジャー」として20年以上、年間200回以上の出前授業を各地で行っています。子どもたちが「ナダレンジャー!!」と元気に呼びかけると、金髪のカツラに紙のメガネ、地下足袋姿の納口さんが、舞台の上手から飄々と現れました。

 でも、よく見ると、まだ付けヒゲがありません。それでも「準備運動」と称して皿回しを始め、子どもたちとの距離をぐっと縮めていきます。そして「慣れてくれたと思うので、ナダレンジャーに変身していいですか?」と、ここで緑色のヒゲを装着。どっと笑いが起こりました。

 「もし、こういう不審者が学校に来たら、すぐに先生に言わないとだめだからね」。子どもたちは口々に「変な人がいまーす!」。そこでナダレンジャーは名誉挽回のために自己紹介。本来は、雪崩など自然災害が専門の博士です。「悪いことはしないけれど、怖いことはします。だって、災害の実験だよ。怖い実験好きな人いる?」と問うと、「はーい!」と何人もの手が挙がります。「じゃあよく聞いて、今、千葉県は大変だよね」と、記憶に新しい台風15号の話になりました。

 そこでナダレンジャーは「突風マシン」を取り出しました。大小のうちわとプラスチック製の空気砲。これで風を作るのです。風を当ててほしい子どもたちが大騒ぎ。「でも、もしこの空気砲が体育館ほどの大きさで、人間がアリの大きさだったらどうなる?」とみんなに問いかけた後、声を低くして言いました。「災害は、巨大だから怖いだけなんだよ。でも、ミニチュアになると、災害は全部おもちゃになります」。

「ナダレンジャー0号」で雪崩を再現

 実験では、身近にある材料を使います。雪崩の実験では、まず、勾配のある坂の上からピンポン球を30万個落とした時の写真を見せました。もし、これがゴルフボールだったら、痛い思いをするでしょう。でも、これが「自然のわな」なのだそう。「最初から怖いと思うものは用心します。逆に、用心しないから災害の被害が起こるんです」。続いて、太くて長いビニール袋に発泡スチロール粒を入れた「ナダレンジャー0号」「マイナス1号」で、正面から雪崩が迫ってくる様子を体験してもらい、みんなをぐんぐん引き込んでいきます。

 「大きな災害が来た時は、誰も助けに来てくれません。その場の判断が一番大事。自分たちの命は自分で守ることを忘れると、災害に負けます」と訴えるナダレンジャー。

「マイナス1号」はさらに巨大

 地震による地盤の液状化を再現する「エッキー」は、ペットボトルに砂と丸ピン(画びょう)を入れ、水を満たしたもの。ボトルを逆さまにして砂を静かに沈め、指先でポンと表面を弾くと、沈んでいた丸ピンが砂から浮き上がりました。続いてボトルの砂の中に指人形を付けた棒を立てます。軽くたたくと、今度は棒がぐっと沈んでいきます。「えーっ!」。

 東日本大震災の際にはマンホールが浮き上がったり電柱が地中に沈んだりする現象が起きました。様々な種類のエッキーを使い、液状化現象では普段とは違う浮き沈みの現象が起きることを学びます。

「ゆらゆら3兄弟」も登場

 次に、建物の高さによって地震の揺れがどうなるかという実験です。大和田小の周辺には10階以上のマンションが多く立ち並んでおり、関心も高そうです。高さの違うビルに見立てた3つのスポンジを前に、どれが最も揺れるか問うと、多くの子どもたちが「一番長いスポンジ」に手を挙げました。確かに、ゆっくり揺らすと長いスポンジが大きく揺れますが、素早く揺らすと短いスポンジの方が大きく揺れます。「地震には、それぞれの高さの建物に合った揺れ方のリズムがあるんだね」。

大きくしなる棒に「うわーっ!」

 最後の実験では、台車に発泡スチロール製のブロックを30個以上も積み上げました。選ばれた児童5人がそのわきにスタンバイ。頭を腕で覆い、ダンゴムシのように身を丸くして伏せるようにとナダレンジャーが指示し、みんなの手拍子に合わせて台車を揺らします。手拍子は、これまでで最もゆっくりしたリズムです。およそ10秒後、カコーン!という音とともにブロックはあっけなく崩れました。「勉強する時は、こういう風に楽しくね。でも、本当に起こったら大変なんだよ」「地震の時はブロック塀のそばに寄っちゃだめ」とナダレンジャー。

ブロックが傾いた!

 実験を終えると、納口さんは素顔に戻ります。「これカツラだったんだよ」「えーっ?知ってたよ!」と児童たち。ここからは質問タイム。「どうして雪崩は先端が頭でっかちになるの」に対しては「大学に行って物理学を勉強してナダレンジャーの弟子になりなさい」。また「高さで揺れが違うのはなぜ」との問いには、やはり勉強を勧めつつ「算数だけはやって。でないと永久に後悔するよ」と研究者らしく答えていました。そして、管に穴を開けて自作したという縦笛で納口さんは「蛍の光」を演奏、2時間の授業は終了となりました。

「蛍の光」を奏でる納口さん

 青山校長は「理科好きの子どもが育ちます。ブロック塀から身を守るなど、いいお話もありました」と話しました。開催日は台風15号が千葉県内に大きな強風被害と大規模な停電をもたらした直後。宮﨑修教頭によれば、大和田小では停電や断水はなかったものの、プールを囲む柵の一部が支柱の根元から折れ、隣の市文化会館側に大きく傾いてしまったそうです。「台風の被害をニュースで見聞きし、子どもたちの意識は高まっていたと思います。実験は飽きさせず、子どもを引きつける話し方は、教員にも参考になります」と宮﨑教頭は述べました。


午前中は防災体験がありました(PTA提供)

 この日同校では午前中、PTA主催の「防災体験」イベントがあり、文教大学のボランティアサークル「さちこの会」の学生の協力で、子どもたちは担架リレー、おにぎり作りなどを体験しました。「防災科学教室」もこのイベントにあわせて計画したそうで、応募したPTA副会長の大町智子さんは「ベルマーク説明会に参加した時、配布資料の中にあったチラシを見逃しませんでした」といいます。同校では主にPTA本部とボランティアの保護者が、収集したベルマークの仕分けや計算を担っているそうです。

右から、PTA副会長の大町智子さん、同副会長の島田正樹さん、同会計の西本宗子さん

 大町さんはナダレンジャーの話を聞いて「液状化という名前は知っていても、仕組みは知りませんでした。一番響いたのは、自分の身は自分で守る、ということを専門家の方に言われたこと」と話します。「面白かった。ペットボトルで、電柱のように下に沈むのを作ってみたい」と言うお子さんの理一郎君(4年)に「作ろう!」と応えていました。同じクラスの保田志晴君(4年)は「今日学んだことはこれからに生かせそう」と前向きな感想を述べていました。

 帰り際、納口さんは、もうコミカルなナダレンジャーではなく、冷静な研究者でした。そして、PTAの役員らへのあいさつで、こう語りました。「科学の所作を知り、災害と向き合うことです」

記念撮影。Dr.ナダレンジャーはどこでしょう?

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