2018年8月号 読んでみたい本


(2018/08/10)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 暑い夏です。8月に戦争に関わる作品を紹介するというのは“いかにも”感があるのですが、昨年までの紙の新聞では8月発行号がなかったこともあり、この機会に2冊の翻訳作品を取り上げさせていただきます。

 『マンザナの風にのせて』(ロイス・セパバーン・作、若林千鶴・訳、ひだかのり子・絵、文研出版)は、日系アメリカ人の家族をおそった悲劇の物語。1942年3月、シアトル対岸のベインブリッジ島に住んでいたマナミの一家は、カリフォルニア州の砂漠地帯マンザナに作られた収容所に移送されます。その途中、コートの中に隠していた犬のトモが見つかってしまい、その時からマナミの言葉は失われてしまいます。『1945,鉄原(チョロン)』(イ・ヒョン・著、梁玉順・訳、影書房)の舞台は朝鮮半島のほぼ真ん中に位置する町鉄原(チョロン)。時代は1945年8月の「解放」直前からの2年ほど。大地主の息子に生まれながら共産主義に心を寄せる基秀(キス)、その幼馴染で小間使いとして働く敬愛(キョンエ)など、さまざまな境遇の若者たちの、南北朝鮮の対立の最前線ともいえる地での、文字通りの苦闘が描かれます。

 僕が注目したのは両作品の作者の年齢で、前者は1974年、後者は1970年生まれ。この世代の作者が、自国の歴史の負の部分にも目をそらすことなく描き切っていることに、希望を覚えました。そして、どちらの作品も日本人の「戦争体験」を相対化し、立体化する視点と力を持った作品だと思いました。対象年齢としては、『マンザナの風にのせて』は高学年以上、『1945,鉄原』はやはり中学生からでしょうか。

 


絵本

『おうち』(中川ひろたか・作、岡本よしろう・絵、金の星社)

 帯に「はじめてのテツガク絵本」とあり、表紙カバーの折り返しには「なんでわたしはこのおうちにかえってくるんだろう?」とあります。この絵本にその答はありません、というと変かもしれませんが、でも、これを読んだ子どもは、この問いをとてもうれしい気持ちで自らに問いかけるに違いありません。みんなで読んだ後また一人で読むと、違った味わいが出てきそうです。(低・中学年から、1300円+税)


『ひみつのてがみじゃ!』(高木あきこ・うた、さいとうしのぶ・絵、リーブル)

 サブタイトルは「にんじゃかぞえうた」。 一文字城の殿様が十文字城の殿様に大事な手紙を書いたという設定で、手紙が10人の忍者たちへ、次々にリレーされていきます。「一のにんじゃは いちごでござる/いちばんはじめに はしるでござる/いちばんどりが なくころに/いっぽんみちを はしりだす」というふうに、こうした絵本にありがちな無理矢理感が全くなく、軽快に進みます。さて、殿様の手紙の用向きは?(低学年から、1100円+税)

  


  

低・中学年向け

『わたしといろんなねこ』(おくはらゆめ・作、絵、あかね書房)

 七夕の短冊に「ねこがかえますように」と書いたあや。あやの家はマンションで、ねこは飼えません。ここまではよくある設定ですが、でも、あやの家にはいろんなねこが現れるのです。なぜ?どんなねこが?どんなふうに? そこが誠にユニークというか、いろんな人のいろんな思いがねこを連れてくるとでも言ったらいいでしょうか。読み終わって、タイトルの意味がもう一度心にひびいてきます。(低・中学年向き、1200円+税)


『こだわっていこう』(村上しいこ・作、陣崎草子・絵、学研プラス)

 時々「こだわりスイッチ」が入ることがあるそうまくん。しまう時の結び方が気になって、なわとびを放さず、あやまって友達のえるの目の上を傷つけてしまいます。「そうまくんと遊んじゃだめ」というお母さんに、うまく説明できないえる。えるの家に遊びにやってきたそうまくんは、お母さんが育てているバラの花の様子に、いろいろ注文をつけだします。マイペースのそうまくんと、波風を立てたくないえる。そして、そんなえるにしっかりダメ出しをするかんなちゃんと、登場人物の関係性が絶妙で、えるの右往左往に身につまされる読者も少なくないでしょう。(中学年以上向き、1300円+税)

  


  

高学年・中学生向き

『サブキャラたちの日本昔話』(斉藤洋・作、広瀬弦・絵、偕成社)

 浦島太郎に出てくるカメは、オスかメスか? なんとなくオスという印象ですが、産卵をするわけでもないオスがなぜ陸に上がって、子どもたちに捕まったのか? それから桃太郎の犬は、たかがきび団子1個で、なぜ命に関わる鬼退治についていくことにしたのか? 言われてみれば、昔話にはいろいろと腑に落ちない点があります。以上に加えて、金太郎のクマを加えた3者が、昔話の陰に隠された“真実”を語ります。(高学年から大人まで。1200円+税)


『気がつけば動物学者三代』(今泉忠明・著、講談社)

 著書は先頃の「こどもの本総選挙」で一位になった『ざんねんないきもの事典』の監修者。タイトルの「三代」ですが、父、著者、息子に加えて、著者の兄も動物学者。子どもの頃父に連れられて、山で数えきれないほどのネズミなどを捕まえたという著者が、どのようにして動物学者になったのか。これもタイトルが語る通り「気がつけば」なのです。そこにはノーハウや教訓があるわけではなく、ひたすら様々な動物を追いかけて知り得た事実のおもしろさがあるだけです。イリオモテヤマネコとの遭遇や日本の研究環境への警鐘を含めて、幸せな発見に満ちたノンフィクションです。(高学年以上向き、1200円+税)

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