2016年新学期号 読んでみたい本


(2016/04/18)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 最初に紹介したいのは、「魔女の宅急便・特別編」として出された『キキに出会った人びと』(角野栄子・作、佐竹美保・絵、福音館書店)です。「魔女の宅急便」はアニメ映画でご覧になった方が多いと思いますが、原作となった第一巻から六巻まで続いており、最後はキキがお母さんになります。その第六巻でシリーズは完結となったのですが、今回いわゆるスピンオフとして、この特別編が出たわけです。四話で構成されており、第一話は「ソノちゃんがおソノさんになったわけ」。おソノさんは、キキがコリコの町にやってきてお世話になるパン屋の奥さんです。いかにも元気いっぱいで、キキを母親のように見守るおソノさんですが、彼女にはそこに至る結構悲しいドラマがあったのだ、ということが、今回明らかになります。という具合に、シリーズのファンにとっては、見逃せない一冊です。これを先に読んで、本編のほうを読み始めるのもいいと思います。

 ファンタジーの話題をもう一つ。これもジブリ作品で「ハウルの動く城」がありました。その原作者ダイアナ・ウィン・ジョーンズは5年前に亡くなりましたが、その最後の作品が未完のまま残されました。これを作家で女優でもある妹のアーシュラ・ジョーンズが引き継いで、完成させました。『賢女ひきいる魔法の旅は』(田中薫子・訳、佐竹美保・絵、徳間書店)がそれで、ファンタジーの女王とも呼ばれたダイアナらしい魅力にあふれた物語に仕上がっています。

  


  

 さて、ここからは例によってジャンル、グレード別に本を紹介していきます。まずは絵本から。

  

『わるいわるい王さまとふしぎの木』(あべはじめ・作、あすなろ書房)
 砂漠の真ん中のお城に住む王様は、あまりにわがままなので、家来がみんな逃げ出してしまいました。せいせいしたと一人を楽しんでいた王様、領内にやってきたおじいさんに通行料を払えというと、幸せの実がなるという種を差し出されます。試しに土にうめ、毎日水をやっていると、芽が出て段々伸びていきます。さて、本当に「幸せの実」はなるのか? ユーモラスな展開で、ちょっと考えさせられるお話でもあります。(低・中学年向き、1400円+税)


『とんでもない』(鈴木のりたけ作・絵、アリス館)
 始まりは一人の男の子。さいの置物を見て、「よろいみたいな立派な皮があっていいなあ」とつぶやくと、それを耳にした本物のさい、「とんでもない」と一喝。「重くて大変、うさぎみたいにはねまわりたい」とつぶやくと、今度はうさぎが出てきて「とんでもない。落ち着かなくてうんざり」というふうに、どんどんつながっていきます。教室で読んだら「とんでもない」の大合唱になりそうです。(低・中学年向き、1500円+税)


『まんげつの夜、どかんねこのあしがいっぽん』(朽木祥・作、片岡まみこ・絵、小学館)
 山に一人で住むノネコは料理が得意ですが、お客がきません。山を下りていくと犬に追いかけられ、逃げた先が土管の中でしたが、抜けられなくなってしまいます。実はこの土管は、満月の夜にねこたちが集まって演説をする舞台でもありました。土管にすっぽりはまったノネコの姿を見て、「満月の夜、土管ねこがあ……」と歌いだしたねこたち。ノネコも動かせる前足で調子を合わせます。なんとなく宮沢賢治を思わせるような不思議なストーリーで、子どもたちに読んであげるテキストとしてぴったりな気がします。(低・中学年以上向き、1400円+税)


『あしたがすき』(指田和・文、阿部恭子・絵、ポプラ社)
 サブタイトルが「釜石「こすもす公園」きぼうの壁画ものがたり」。震災で子どもたちの遊べる場所がなくなった釜石で、畑をつぶして公園が作られました。ところが、これに隣接する工場の大きな灰色の壁が、津波を思い出させてしまうというのです。これを聞いて、壁画を描こうというプロジェクトが始まり、タイ在住の画家阿部恭子さんの絵が、幅43メートル、高さ8メートルの壁一面に、1年をかけて描かれました。このエピソードをもとにしたノンフィクション絵本ですが、迫力のある絵がすばらしく、実物の大壁画を見たくなりました。(低学年から、1300円+税)


  


  

 次は、低学年から中学年向きの読み物です。

  

『ようこそ なぞなぞしょうがっこうへ』(北ふうこ・作、川端理絵・絵、文研出版)
 入学式を迎えたてんちゃんの学校は「なぞなぞしょうがっこう」。その名の通り、行く先々でなぞなぞが待ちかまえています。第一話の「たいいくかん」に続いて「きゅうしょくしつ」「ずこうしつ」というふうに、学校の中のさまざまな場所がてんちゃんを待っています。一年生に読んであげるのにぴったりですが、二年生が一年前を思い出して読むのも楽しそうです。(低学年向き、1200円+税)


『はいくしょうてんがい』(苅田澄子・作、たごもりのりこ・絵、偕成社)
 ふうちゃんが夜スーパーに行くために商店街を通りかかると、お店の看板から飛び出したキャラクターたちが、「うちの店が一番」と騒いでいます。招き猫の一言で、俳句で決着をつけることに。それぞれお店の自慢を五・七・五に読み込みます。すると今度はスーパーの品物たちも乱入して、俳句大会に。これを読んだ子どもたちの間で五・七・五が流行りそうです。(低・中学年向き、1300円+税)


『こぶたものがたり―チェルノブイリから福島へ―』(中澤晶子・作、ささめやゆき・絵、岩崎書店)
 チェルノブイリの農場に住むターニャは、お気に入りで学校にまで連れていっていたこぶたと原発事故のために別れ別れになってしまいます。その後日本に招かれたターニャは、福島でふゆこと出会います。それから25年後、ふゆこの娘なつこは、親戚の養豚場で見つけたこぶたを「もも」と名づけてかわいがっていました。しかし、大地震による原発事故のために避難を余儀なくされます。こぶたの視点から、人間が引き起こした悲劇が語られます。(低・中学年以上向き、1300円+税)


『野うさぎパティシエのひみつ』(小手鞠るい・作、土田氏はる・絵、金の星社)
 森の動物たちに親しまれているくろくまレストラン。そこでケーキ作りの修業中なのが、野うさぎです。ところが、ようやくできあがったケーキも残されてしまいます。お客様に喜んでもらえるおいしいケーキを作るには、どうしたらいいのか? 野うさぎが向かったのは、やぎのあごひげ館長がいる森の図書館でした。ケーキが好き、図書館が好き、どちらの子たちにもお勧めです。(中学年以上向き、1200円+税)


  


  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

  

『怪魚ハンター、世界をゆく』(こうやまのりお・文、佼成出版社)
 本を開くと、まずは巨大な三種類の魚の写真に圧倒されます。大きいだけでなく姿も特別で、パプアニューギニアのディンディという魚の頭にはまるでチェーンソーのようなくちばし?がついています。これらを釣り上げたのは、富山県高岡市出身の小塚拓矢さんで、世界中の淡水に棲む巨大魚を追いかけて、次々にヒットしていったのです。小塚さんがどうして巨大魚に魅せられたのか、現地の人たちとどんなふうにコミュニケートしているのか、写真で見る魚たちの不思議さと共に、今三十歳という小塚さんの生きざまに惹かれるノンフィクションです。(高学年以上向き、1500円+税)


『真田十勇士(全3巻)』(小前亮・作、)小峰書店
 NHKの大河ドラマに合わせて、児童書でも真田本がいろいろ出ていますが、中でこれは出色の本格時代読み物です。第1巻が「参上、猿飛佐助」で、「決起、真田幸村」「激闘、大坂の陣」と続きます。霧隠才蔵や三好晴海入道といった、懐かしいヒーローたちの活躍はもとより、主人公佐助の生い立ちから師匠の戸沢白雲斎との出会い、忍者としての成長や葛藤がていねいに描かれ、佐助の成長小説としても楽しめます。電子ゲームやコミックで歴史に興味を持った子どもたちにもお勧めです。(高学年・中学生以上向き、各1400円+税)


『世界一のランナー』(エリザベス・レアード作、石谷尚子・訳、評論社)
 マラソンの大会がある度に、アフリカの選手たちのすばらしい走りに圧倒されますが、これはエチオピアを舞台に、マラソンランナーを夢見る少年を描いた物語です。高原の農村で暮すソロモンは走ることが大好きですが、おじいちゃんのお供で初めてアディスアベバに出かけます。おじいちゃんの目的は、亡くなった友人の息子を訪ねることで、そこでソロモンは、おじいちゃんがかつて国内有数のランナーだったことを初めて知ります。皇帝の護衛兵だったため、革命後監獄に入っていたことも。エチオピアの近代史を背景に、祖父から孫に託された夢の行方が語られます。(高学年・中学生向き、1450円+税)


『お静かに、父が昼寝しております―ユダヤの民話』(母袋夏生・編訳、岩波書店)
 世界のどの民族にも、語り継がれてきた民話がありますが、ユダヤの民話の本というのは、初めて読みました。ユダヤ人が世界各地に住んでいることを反映して、お話の舞台もイスラエルだけでなく、東欧、中近東など様々です。そうした土地の民話と融合したケースもあり、グリム童話やアラビアンナイトなどと似ている話もあります。旧約聖書が原典の話も多く、この本でも「創世記」から何話かがとられていますが、全体としてユーモアやとんちに富んだ話が多く、迫害に苦しむことの多かったユダヤの人々の願いが込められているようにも感じました。(高学年から、720円+税)


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