2016年新年号 読んでみたい本


(2016/01/18)印刷する

  

児童文学評論家 藤田のぼる

  

 この欄の前号でも名前をあげましたが、那須正幹さんといえば、かつて圧倒的な人気を博していた「ズッコケ三人組」シリーズの作者です。2004年の『ズッコケ三人組の卒業式』で五十巻をもって完結しましたが、三人組が四十歳を迎えたという設定の「ズッコケ中年三人組」シリーズが翌05年に発刊され、一歳ずつ年を取る形で毎年刊行されてきました。そして、昨年12月に出された『ズッコケ熟年三人組』(ポプラ社)で、ハカセ、ハチベエ、モーちゃんもついに五十歳となり、これをもってこのシリーズも本当に完結ということになりました。

 元の三人組シリーズも、時折社会的な題材が組み込まれていましたが、中年シリーズではさらにその傾向が強まり、今度の熟年三人組では、前年の広島市の土砂災害が取り上げられています。というのも(前号でもふれましたが)那須さんは広島市の出身で、三歳で被爆した体験を持っており、「ズッコケ三人組」の舞台ミドリ市は、広島をモデルにしています。かつてこのシリーズに親しんだ先生方やお父さん、お母さんたちには、子ども時代を思い出しながら中年シリーズも楽しんでいただければと思います。

  


  

 さて、ここからは例によってジャンル、グレード別に本を紹介していきます。まずは低学年向け絵本から。

  

 おばあちゃんの住むお屋敷に一人で泊まりにきたさやちゃん。朝起きると窓から小鳥が入ってきて、さやちゃんとのなぞなぞ遊びが始まります。さやちゃんが答えるたびに、奥に導かれていき、最後はおばあちゃんの待つ食堂に。なぞなぞを一つ解くごとに、ゴールに近くなっていくワクワク感にあふれた楽しい絵本です。(低学年向き、1400円+税)


『オオカミのはつこい』(きむらゆういち・文、田島征三・絵、偕成社)

 『あらしのよるに』の木村裕一と『ふきまんぶく』の田島征三のコラボのシリーズ。森で一番強いオオカミが出会ったメスのオオカミ。誘いをかけようとするたびに、「オレなんかよりかっこいい友だちがいるかもしれない」「もっと強いオスが好きにちがいない」と、なかなか声をかけることができません。大胆なタッチの田島の絵と揺れるオオカミの気持ちが重なって、独特の世界を生みだしています。(低学年から、1400円+税)


『女王さまのぼうし』(スティーブ・アントニー作、せなあいこ・訳、評論社)

 舞台はまずはロンドン・バッキンガム宮殿。女王さまがお出かけになろうとすると、風で帽子が舞い上がってしまいます。懸命に帽子を追いかける女王さまと犬と衛兵たち。やがてトラファルガー広場からタワー・ブリッジへと、絵本はロンドン名所巡りの様相を呈してきます。黒い帽子に赤い服の大勢の衛兵たちが模様のように描かれる画面構成が魅力的で、絵本らしい楽しさに満ちています。(低・中学年向き、1400円+税)


『あつめた・そだてた ぼくのマメ図鑑』(盛口満絵・文、岩崎書店)

 ページを開けると、左右一杯に実物大に描かれた様々な豆。一番大きなモダマという豆は5センチ以上もあります。これらの豆はそれぞれどんなふうに育ち、どのようにして食べられているのか。中にはサヤインゲンのように、中の豆でなくサヤを食べるものもあります。知っているようで、知らないことの多い豆をめぐるあれこれが、ページをめくるごとに展開していき、自然の力、生命の不思議が実感されていきます。(低学年から、1500円+税)


  


  

 次は、低学年から中学年向きの読み物です。

  

『だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ』(安房直子・作、ひがしちから・絵、偕成社)

 作者の安房直子さんは、すでに亡くなられていますが、「きつねの窓」など教科書でも親しまれた作家です。その安房さんの連作が絵童話として蘇りました。働き者だけれど一人ぼっちのだんまりうさぎ。ある日、とてもおしゃべりなうさぎがやってきて、かごのなかのくるみもちと畑の野菜を取り替えてくれないかと頼みます。初めておもちを食べただんまりうさぎ、初めて友だちができただんまりうさぎ。あたふたしながらもうれしいだんまりうさぎの気持ちが、じんわりと伝わってきます。(低・中学年向き、1400円+税)


『わすれものチャンピオン』(花田鳩子・作、羽尻利門・絵、PHP研究所)

 となりの席のルミちゃんと、クラスの「わすれものチャンピオン」の座を争っているひろき。お母さんに学校のプリントをわたすのを忘れてしっかり怒られた翌日、新しいスニーカーに気を取られて、図工の時間で使うクレヨンを忘れてしまいます。大ピンチのひろきに救いの手を差し出してくれたのは……。筆者自身も小学生時代の失敗を思い出しましたが、これを読んで、まるで自分のことのようだ、と思う男の子もたくさんいるのではないでしょうか。(低・中学年向き、1100円+税)


『みんなのおばけ小学校』(市川宣子・作、石井聖岳・絵、佼成出版社)

 入学式の写真で、新入生たちの後ろに五人もの白いかげが写っている写真がネットに流出、次々に子どもたちが転校してしまい、残ったのは全校で五人だけになってしまいます。この年から校長となったかほる先生は、とにかく五人との新学期を始めたのでした。実は彼女はこの桜小学校の卒業生で、五人のおばけというのは亡くなった同級生たちでした。生前それぞれに活躍していたおばけたちの助力で、子どもたちの学校生活は思いのほか楽しい毎日になっていきます。ひねりの効いた展開で、学校のありようを問いかける物語にもなっています。(中・高学年向き、1300円+税)


  


  

 ここからは、高学年および中学生以上が対象の本です。

  

『恐竜は今も生きている』(富田京一・著、下田昌克・絵、ポプラ社)

 鳥は恐竜から進化したという説は知っていましたが、本書によれば、ティラノサウルスなどの恐竜には羽毛が生えていて、化石から初めて羽毛が発見されたのは90年代の後半になってからのことだといいます。そして、今の爬虫類とは違い、寒暑に関わらず活動できる内温動物だったことがわかってきたというのです。こうした近年の研究をふまえて、恐竜からどのように鳥類に進化したのかが、絵と文でわかりやすく説明されており、なるほど感満載の一冊です。(高学年以上向き、1300円+税)


『茶畑のジャヤ』(中川なをみ・作、門内ユキエ・絵、すずき出版)

 二学期の実力テストで全科目一番の周。しかし、クラスの中で浮いている周にとっては、それは少しもうれしいことではありませんでした。そんな周が本音をもらせる相手は、発電所工事のために日本とスリランカを往復しているおじいちゃん。冬休みを前にこれ幸いとばかりに、おじいちゃんは周をスリランカに連れていきます。

 スリランカの工事現場は周の予想以上に雑然とした場でしたが、ここで運転手として雇われているセナの妹ジャヤと出会います。スリランカは長く内戦に苦しみましたが、セナやジャヤの両親は、内戦で対立したタミル人とシンハラ人という珍しい組み合わせでした。おじいちゃんのマイペースぶりに振り回されながらも、周は自分自身への思いを新たにしていきます。こうした舞台設定も今の子どもたちには違和感なく受けとめられるのでは、と思えました。(高学年・中学生以上向き、1500円+税)


『根の国物語』(久保田香里・作、小林葉子・絵、文研出版)

 教科書にも日本の神話が登場していますが、読み物としてのおもしろさを備えた子どものための神話物語は、まだまだこれからという感じです。

 この本の主人公ナムジは、出雲の国の第三王子。ナムジの母はわが子を王の後継にするために、かつて出雲を統治したスサノオから太刀と弓を授けてもらおうと、スサノオが住むという根の国に息子を赴かせます。小屋のような家に住み、娘と共に畑仕事に精を出すスサノオの姿など、神話のエピソードを裏返すような展開が続きますが、後継をめぐる争いは次第にクライマックスに向かいます。神話の知識がなくとも、古代歴史ファンタジーとして充分楽しめる一冊です。(高学年・中学生向き、1300円+税)


『ちいさなちいさなベビー服』(八束澄子・著、新日本出版社)

 表紙には薄緑とピンクのかわいいベビー服の写真。これは市販のベビー服よりずっと小さな手作りのもので、実は病院で亡くなった赤ちゃんのためのものなのです。倉敷中央病院にはボランティアの手芸サークルがあり、妊娠途中、また生まれて日が浅いうちに亡くなってしまった赤ちゃんのために、このベビー服が作られているというのです。こうした活動がいつからどんな経緯で始まったのか、ボランティアの人たちはどんな思いをこめて作っているのか、著者自身がこの活動に参加しながら、様々な人たちとの対話の中で生と死をめぐるドラマを見つめた、意義深いノンフィクションです。(高学年・中学生以上向き、1400円+税)


『AKB48、被災地へ行く』(石原真・著、岩波書店)

 アイドルグループAKB48がグループ全体の取り組みとして、東日本大震災の被災地訪問を始めたのは、震災から間もない2011年5月のことでした。以来毎月休みなく続けられ、本書巻末の表によれば昨年8月の段階で52回を数えています。長く続けられるように、そして現地に負担をかけないように、舞台はステージトラックを使い、メンバーは6人ずつ、ミニライブとハイタッチ会で構成、スタッフも最小限にするためにメイクなども自分でやる、という原則を作りました。著者は第1回からこの活動をプロデュースしてきた方で、これまでのコンサートの中での様々なできごとや、メンバーがこの活動の中で何を感じてきたかなど、臨場感あふれる報告となっています。(中学生から、1000円+税)


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