2014年新学期号


(2014/04/15)印刷する

「読んでみたい本」筆者が交代

 「読んでみたい本」の筆者が交代しました。児童文学者の鈴木喜代春さんから、日本児童文学者協会事務局長の藤田のぼるさんになりました。
 藤田さんは1950年、秋田県生まれ。都内の小学校教諭をへて同協会に入り、事務局長を務めながら児童文学評論家、作家として活動されています。
 前任の鈴木さんは1925年、青森県生まれ。40年近い教員生活を送りながら、「ダメな子はいない」との信念で児童文学を書き続け、170冊もの著書があります。この書評欄は1987年から担当され、3000冊を超える本を紹介していただきました。



藤田さんから

 今回から、鈴木喜代春先生にかわって、本欄を担当することになりました。なにしろ喜代春先生は、この欄を25年以上も続けてこられたということで、今までの記事の一部を拝見しても、先生がどれだけ力を入れてこられたかが、びんびんと伝わってきました。
 僕は若い頃短い期間、小学校教員の経験はありますが、その後は児童文学評論の仕事をメーンにしてきましたから、直接子どもたちと接してきたわけではありません。ただ、国語教科書の編集委員やアンソロジーの編纂(へんさん)などを通じ、また子ども向けの新聞や雑誌などの書評欄を担当して、子どもたちに本の魅力を伝えたい、届けたいと念じてきました。ですから、今回、子どもたちと直接接していらっしゃる先生がたや関係者の方たちがお読みになる本欄を担当させていただくことは、とてもうれしい機会です。
 様々なタイプの作品を紹介できればと願っていますが、併せて、子どもの本に関わるニュースというか、情報なども、少しずつ盛りこんでいければと思っています。
 その第一弾ということになりますが、昨年は子どもの本の分野では二つの「記念」の年でした。一つは、絵本『ぐりとぐら』の発刊50周年、そしてもう一つは「ごんぎつね」の作者、新美南吉の生誕100年です。外国の児童文学では、100年以上読まれてきた作品も珍しくありませんが、日本の作品ではそこまで読み継がれてきたものはなく、『ぐりとぐら』が50年にわたって親しまれてきたということは、日本の児童文学の土台がようやく形になってきたということだと思います。

 そうした中、戦前の作家で言わば例外的に今も読まれているのが、宮沢賢治と新美南吉です。南吉は1913(大正2)年生まれ、「ごんぎつね」はなんと18歳の時の作品ですから、書かれて80年近くということになります。29歳で亡くなりましたが、作品の数は決して少なくありません。それらをコンパクトに楽しめる選集としてお勧めできるのが、『新美南吉童話傑作選』(全7巻、小峰書店)で、低学年向きの「手袋を買いに」、高学年向きの「おじいさんのランプ」、そして中学生に読ませたい「屁」など、いろいろな作品に出会わせたいものです。昨年は大人向けの研究書も何冊か出ましたが、子ども向けの伝記として『新美南吉ものがたり』(楠木しげお著、銀の鈴社)がお勧めで、南吉の文学にかけた思いがしっかりと伝わってきます。



 以下、学年のバランスを考えながら、作品を紹介していきます。まず絵本を3冊。
『チャーリー、おじいちゃんに会う』
(エイミー・ヘスト文、ヘレン・オクセンバリー絵、さくまゆみこ訳、岩崎書店)

 冒頭で、ヘンリーとおじいちゃんとの手紙。その中で、ヘンリーが子犬を飼い始めたこと、しかし遊びに来るおじいちゃんのほうは、あまり犬になじみがないことが明かされます。ヘンリーからすると、どちらも大好きなおじいちゃんと犬のチャーリー。果たして二人は友だちになれるのか?
 絵のタッチも柔らかでヘンリーのドキドキ感や喜びに、子どもたちは大いに共感できるに違いありません。(低学年向き、1300円+税)

『しろうさぎとりんごの木』
(石井睦美・作、酒井駒子・絵、文渓堂)

 森の中で、両親の愛情に包まれて暮しているしろうさぎ。春に生まれたしろうさぎは、夏が始まるころ、初めてジャムつきのパンを食べました。そのおいしいジャムが、玄関わきのりんごの木の実から作られたと聞き、次の日、こっそりりんごの木にかじりついてみるのです。
 この絵本は文章量もあり、じっくり読みこめる作品。読み進めながら、母親の愛情に包まれる喜びと、発見のうれしさにひたることができるのではないでしょうか。(低学年向き、1500円+税)

『はしれ ディーゼルきかんしゃデーデ』
(すとうあさえ文、鈴木まもる絵、童心社)

 東日本大震災に取材した絵本や児童文学は、それなりに出されていますが、この絵本は被災地の〈外〉からの思いをドラマにしていて、心に残りました。被災地に燃料を届けようとしても、電気が必要な電車は動けません。そこで、各地から集められたのが、ディーゼル機関車たち。10両のタンク車をひいて、新潟から郡山まで毎日運転されたのです。ディーゼル機関車に託された人々の思いが痛切に伝わってきます。(低学年以上、1400円+税)

 ここからは、低、中学年向けの読み物です。
『せかいでいちばん大きなおいも』
(二宮由紀子・作、村田エミコ・絵、佼成出版社)

 ヤマモトさんとおくさんが畑から掘り出したのは、世界で一番大きなおいも。そのおいもは、世界で一番大きな人に食べてもらおうと、出かけていきます。ちょっと外国の昔話というか、ほら話のような、スケールの大きな愉快なお話で、読んであげるのにもぴったりです。(低学年向き、1200円+税)

『のねずみポップはお天気はかせ』
(仁科幸子作・絵、徳間書店)

 のねずみの子ポップのお母さんは、森のお天気博士で、みんなから頼られていましたが、大雨で増水した川を見に行き、そのまま帰ってきませんでした。お母さんが残したノートで天気予報の勉強を始めたポップは、季節外れの台風が近づいてきたことに気づきます。避難する森の動物たちの助け合う姿が、印象的です。(低・中学年向き、1400円+税)

 以上、二宮由紀子と仁科幸子の二人は、近年活躍の目立つ幼年童話の書き手ですが、次の作者は、ベテラン中のベテラン。
『ひいきにかんぱい』
(宮川ひろ・作、小泉るみ子・絵、童心社)

 作者の宮川ひろは、ずっと学校、教室を舞台にした作品を書き続けてきました。この作品は、デビュー作の『るすばん先生』で出された題材を、改めて一冊の物語として書き上げたものです。3年生の新しいクラスにやってきた、先生1年目の覚先生。最初の日に、「給食を残さず食べて、元気な3年2組にしよう」とあいさつしますが、「さなえちゃんは、給食が食べられないんだよ」という声があがります。さなえは、家では普通に話せるのですが、学校に来ると声が出なくなり、みんなといっしょに給食を食べることもできません。次の日の係決めの時、先生は3人の「ひいき係」を決めます。
 「ひいき」という、ある意味タブーの言葉を媒介にして、教室内の人間関係を高めていく先生と子どもたち。帯にある〈子どもたちへの温かいエール〉という表現がぴったりです。(中学年向き、1100円+税)

 ここからは、小学校高学年、中学生が対象の作品を紹介していきます。
『がむしゃら落語』
(赤羽じゅんこ作、きむらよしお絵、福音館書店)

 「省エネ人間」とやゆされる5年生の雄馬。クラスの意地悪トリオの計略で、「特技発表会」で落語を演じる羽目になります。近くに住む若い噺家から落語を習うことになりますが、弟弟子のほうが売れたことに嫌気がさしたりで、一向にやる気がありません。
 近年、子どもが落語や漫才に挑戦する話が目につきますが、この作品は落語そのものについてのうんちくが楽しめると共に、ぱっとしないキャラクターの主人公の、言わば〈巻き込まれ物語〉としてのスピード感が抜群。普段読み物に親しんでない子にもお勧めできます。(中・高学年向き、1300円+税)

『小惑星2162DSの謎』
(林譲治・作、YOUCHAN絵、岩崎書店)

 昨年、SF作家クラブの創立50周年記念として、子ども向けの「21世紀空想科学小説」が、10巻で刊行されました。かつて、小松左京、筒井康隆、星新一などによって少年少女向けのSFが書かれ、多くの読者を獲得しましたが、そのおもしろさを今の読者たちにも、との新企画です。この作品は、中でも正統派SFらしい内容で、人類が太陽系の周縁であるガイパーベルトに探索を伸ばしている、比較的近未来の物語です。
 一人乗りの小惑星探査船に乗り込んだ家弓トワ。人工知能によって目覚めさせられますが、探査船の機械頭脳が、不思議な小惑星を発見したからでした。その小惑星2162DSは、この大きさではありえない、ほぼ球体の形なのです。登場するのはトワと人工知能〈アイリーン〉と機械頭脳〈ワトソン〉の三者だけ。次々に起こるトラブルに、三者が連携して立ち向かう姿は、迫真性にあふれています。(高学年以上、1500円+税)

『竹取物語』
(石井睦美・編訳、平澤朋子・絵、偕成社)

 この本は、先にあげた絵本『しろうさぎとりんごの木』と同作者で、一度に二点の紹介というのは、原則的には避けたいところですが、高畑勲監督の映画「かぐや姫の物語」の記憶が残るうちにと、今回取り上げることにしました。
 とはいっても、物語自体は万人の知るところ、この本も原典に余計な解釈を加えたり、アレンジしたりということは、まったくありません。魅力的なのはその文体でしょうか。絵本から大人向けの恋愛小説まで手掛ける作家の手によって、作品に新しい命が吹き込まれたように感じました。「『竹取物語』は、なぞに満ちた物語です」と書き出された、著者による「あとがき」も読み応えがあります。(中学生以上、1200円+税)

『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか―マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える』
(石井光太・文、ポプラ社)

 最後に紹介するのは、パキスタンで、女性の教育の必要性を訴えたことで銃撃されながらも、奇跡的に回復。昨年夏に、ニューヨークの国連本部で16歳の若さで演説し、世界に向けて教育を受ける権利と平和への思いを訴えた少女の、その国連演説と、それを受けての著者の思いがつづられた一冊。写真絵本のような作りですが、タイトルの「なぜ」という問いが、どのページからも切々と伝わってきます。(高学年以上、1500円+税)


 なお、一応の目安として、作品の最後に標準的な対象年齢を書きましたが、読者もさまざま。それぞれの関心度で、境界を飛び越えていただければと思います。

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