童謡に歌われた荒海の向こうにある佐渡ヶ島。島の北西に延びる沿岸のほぼ中央に位置する新潟県佐渡市の高千(たかち)中学校(鈴木恒夫校長、35人)に、この秋ベルマーク運動から、簡単に組み立てられるテント1張とデジタルカメラ3台が贈られました。
この学校では30年以上も前から、
佐渡に伝わる「文弥人形」の伝承に取り組んでいます。哀愁を帯びた文弥節の調べに合わせて身の丈1メートル数十センチの人形を操って演じる人形芝居で、国指定の重要無形民俗文化財です。市内で伝承している学校は3校だけ。その中で1番長く取り組んでいます。文弥人形クラブの生徒8人が、文弥人形保存会の中田和美さんと本間和子さんから習っています。
訪れた日はちょうど、10月21日の「佐渡人形芝居発表会」に向けて、「ひらがな盛衰記」の粟津ケ原巴合戦の場の練習に生徒たちは一生懸命でした。力強く早い立ち回りが持ち味で、練習が済んだ生徒たちは荒い息。巴御前の使い手、3年生の本間安理さんは「
首の動かし方で人形が人間みたいになるのが魅力」と話していました。リーダーの3年生、宇川和志君は「人形が生き生きとして動く芝居を見ているうちに感動し、次第にとりこになっていました」「今に残された文化を絶やしてはいけないと思います」と、8月に行われた市の青年の主張で発表しました。そして、「奥が深くやりがいがあります」と話していました。
練習の様子を鈴木校長が、寄贈されたデジタルカメラで撮っていました。「3台いただいたので、学年ごとに使うことができます。学校で集めているマークではとても購入できません。今回多くの方々の活動
によっていただくことができて、本当にありがたい」と話していました。
島の玄関口、両津港からバスを乗り継いで2時間余り。満目の日本海を前に刈り入れが済んだ田んぼに囲まれた鉄筋3階建の学校は、戦後教育が始まった1947年に開校。25年前の統合で校区は沿岸20キロメートルに広がり、点在する18の集落から35人の生徒が通う、へき地3級校です。
生徒数は年々減り続けて来年は30人になるという状況ですが、「小規模校でも生徒たちはみんな頑張っていますよ」と鈴木校長。陸上スポーツでは全員が島内のマラソン大会に参加し、佐渡市駅伝大会にもチームを組んで出場します。人数をそろえるだけで選抜チームを組めないことが他校に比べて不利ですが、9月の大会では女子チームが勝ち進み、
新潟市の地区大会に出場しました。結果は「予想を上回って47校中19位の成績でした」と、鈴木校長は喜んでいました。生徒たちのために、遠征する時に使うテントが欲しかったそうです。隣の高千小学校と合同で行う秋の運動会は、地区の運動会でもあり、大勢の人が集まりましたが、その時もとても役立ったそうです。生徒たちは「手軽に持ち運べて簡単に組み立てられる」と言いながら、慣れた手つきでテントを組み立てて見せてくれました。
荒波が作る波の花が県道をおおい、遮るものない北風が真横に吹きつけるという厳しい冬はもうすぐです。生き生きとたくましく頑張る生徒たちにエールを贈りたいと思いました。
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佐渡の「文弥人形」は、300年ほど前に大阪ではやった浄瑠璃(じょうるり)語りの「文弥節」が佐渡に渡って語り継がれ、1870(明治3)年に文弥語りの伊藤常磐一と、佐渡に古くから伝わる説経(せっきょう)人形芝居の人形使い大崎屋松之助が協力して創り出した人形芝居。高千中学校の生徒を指導している中田和美さんは、「文弥人形」を世界に広く紹介した濱田守太郎さんの孫。
(2007/10/30)
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