読んでみたい本



  ベルマーク新聞の「読んでみたい本」のコーナーで20年以上、児童・生徒・PTA向けに、本を紹介し続けている児童文学者・鈴木喜代春さんの「書評コーナー」を、ベルマーク財団のホームページでもご紹介します。書評は3カ月に1度くらいで更新してゆきます。


『三丁目の傘屋さん』
岡本小夜子作、篠崎三朗絵

 京都の古い町なみ。車も通らない細い道に、お店がならんでいる。こどもの店もある。そのなかに一軒の傘屋がある。太い竹の骨に、あぶら紙をはった番傘。雨が降りそうだ。主人は、ほしてある傘を入れるために、もの干し台にのぼる。お月様が出てきて、傘をくださいと言う。主人はあげる。
  静かな傘屋さんの毎日。それはそれは平和だ。大きな絵も平和で美しい。小学校中級以上向き。

そうえん社・本体1200円+税
『ライオンのリーナ』
ジャン・ラッタ文と写真、天川佳代子訳

 アフリカの平原で暮らすライオン一家。ねそべる、毛をととのえる、なめてあげるなどなどと仲が良い。知っているつもりのライオン。ところが知らないライオンについて、写真でとらえて、みごとに知らせてくれる。
  夕方の獲物をとらえるライオンの「いのち」の震動がピーンとつたわってくるからすごい。小学校初級以上向き。

あかね書房・本体1000円+税
『いのしし』
前川貴行写真と文

 大きないのししの写真。みごとないのししをとらえている。赤ちゃんを産んだいのしし、背中にのせて遊ばせているいのしし。4頭のいのししの子がならんでおちちを飲んでいる。
  いのししの大きな鼻の写真にはびっくりする。泥の中をのたうちまわって寝ているいのしし。老いたいのししはボロボロだ。それでも「いのち」の音が聞こえてくるような、みごとな写真。すばらしい。小学校初級以上向き。

アリス館・本体1600円+税
『しにがみとおばあさん』
鎌田暢子ぶん・え

 おばあさんが、一人ぼっち。きょうも「あーあ いやだ。もう しんでしまいたい」と、ぐちを言いながら畑仕事をしている。
  そこに「しにがみ」が来て、おばあさんを連れていこうとする。おばあさんは「しにがみ」を突きとばす。しにがみのもっている「命の砂時計」がこわれてしまい、しにがみは消えてしまう。それからおばあさんは1人で仕事をしても「しにたい」とは決して言わない。「しにがみ」を「生きる力」に変えてしまったおばあさんは立派。小学校初級以上向き。

大日本図書・本体1400円+税
『ごきげんぶーた』
さとうめぐみ作、絵

 ぶーたは、ごきげん。カスタネットで、タカタンタカタンと、森をはねまわる。見ていたとらさんも、きりんさんも、わにさんも、さるさんも、みんなみんな楽しい仲間だ。森じゅう、タカタン、タカタン、タカタン、タカタンとつづいていく。
  限りなく明るい1冊だ。幼児以上向き。

教育画劇・本体1000円+税
『うずまき貝のロケット』
なすだみのる文、吉田稔美絵

 ジュンは、おじいさんと海へ遊びにいく。うずまき貝を拾う。うずまき貝は、ロケットになって、ジュンをクジラのところへ連れて行く。
  クジラを網に入れると、うずまき貝のロケットは空を飛んで行く。
  海と空の、大きな大きな世界が、大きな大きな絵と一体となってジュンと一緒に楽しめる絵本。小学校初級以上向き。

ひくまの出版・本体1500円+税
『てぶくろ山のポール』
井上こみち文、石井勉絵

 シンイチおじさんは、ゴールデン・レトリーバーの幼犬のポールと、信州の「てぶくろ山」の近くに、一人で住んでいる。
  隣の家の、小学校2年生のはるちゃんは、ときどき学校を休む。はるちゃんのお母さんは、家を出たまま帰ってこない。はるちゃんはお母さんを探して山の中で道に迷う。ポールがはるちゃんの靴をくわえてくる。はるちゃんは助かる。山の中の静かな生活は、とってもあたたかい。てぶくろ山のぬくもりが伝わってくる。小学校中級以上向き。

佼成出版社・本体1300円+税
『シャーロット姫とウェルカム・ダンスパーティ』
ヴィヴィアン・フレンチ著、サラ・ギブ絵、岡本浜江訳

 シャーロット姫が、すばらしい姫になろうとして、王宮にある学園に入る。
  すばらしい学園を想像して入ったのに、園長はこわい顔で、ベットのシーツはもめんだ。逃げ出そうかと考えるほどだ。ところが同室の5人の姫とともに、みごとにダンスパーティに出ることができたのだ。シャーロットも、みんなも、この学園に入ったことを喜ぶ。小学校上級以上向き。

朔北社・本体700円+税
『絵解き江戸しぐさ』
和城伊勢著、山口晃表紙絵、いはら遊挿画

 江戸の町衆の間で、トラブルを避け、気持ちよく暮らすためのルール、それが「江戸しぐさ」である。例えば「肩引き」とは「せまい道で行きかうとき、ぶつからないように、すれちがう」こと。「こぶしうかし」は「人が乗ってきたときは、自主的に少しずつ座をつめる」こと。
  この本にあげられている62の「江戸しぐさ」は「いま」も大切な「しぐさ」である。そばに置いて、ときどき開いて見たい本だ。中学以上向き。

金の星社・本体1000円+税
『サカサマン』
海老沢航平文、本信公久絵

 空から赤いマントをつけたカエルが飛んできた。それがサカサマンだ。そのサカサマンが、怖くてジェットコースターに乗れないぼくの口から、身体の中にとび込んだ。するとぼくは、ジェットコースターが怖くなくなって、ジェットコースターに乗ってしまう。
  このように、なんでもサカサマになっているうちにぼくは強く、優しい子になっていく。おかしくて楽しくて元気の出るサカサマンだ。小学校初級以上向き。

くもん出版・本体1200円+税
『細胞のはたらきがわかる本』
伊藤明夫著

 「すべての生物に共通なものが“細胞”」という。「私たちのからだは、小さい細胞が、およそ60兆個集まってつくられています」という。目に見えない「いのち」の素粒子の「細胞」をこの本は、次の順序でとらえていく。@細胞は小さないのちA細胞は生まれるB細胞は増えるC細胞は死ぬD細胞はからだをつくるE細胞は連携するF細胞の中をのぞいてみるとG細胞内社会のはたらき。
  物語の本で「心」をとらえることもすばらしい。同時にこのような科学の本で「心」をとらえるのもすばらしい。小学校上級以上向き。

岩波書店・本体780円+税
『ふれあいあそびうた絵本』
コンセル原案、遠藤賢一絵、大石有里子歌

 歌にあわせ、表情をつくって親子が一緒に遊ぶ絵本。歌って、手と指で表情をつくる。手と指でつくる表情も、歌う曲もついていて、すぐできるからうれしい。
  曲は「1ちょうめのドラネコ」「うさぎとかめ」「くもちゃんゆらゆら」「5にんのこびと」など、計11曲ついている。曲のCDもついている。表情は心と体を育てる。ありがたい本だ。幼児と親の本。

コンセル・本体1200円+税
『テントウムシがころんだ?』
谷本雄治作、こぐれけんじろう絵

 小学校3年生の「むし博士」のユウ、小学校5年生のナホ、それに昔は昆虫少年だった父と、すばやく反応する母の、昆虫好き一家4人が、楽しく真けんに「テントウムシ」を調べていく。「テントウ虫」の食欲調べ。「テントウ虫」の脱皮観察。「テントウ虫」の種類調べ。せなかのもようがちがう「ナミテントウムシ」の図鑑もできて、楽しい昆虫一家は明るい。小学校中級以上向き。

文溪堂・本体1200円+税
『3年2組は牛を飼います』
木村セツ子作、相沢るつ子絵

 3年2組は子牛を飼うことになる。7月26日に子牛がくる。牛にブラシをかける。うんちの掃除。くさいからいや。牛の体にさわるのがいや。でも、牛は生きている。みんなは「生きている」ことに、ひきこまれて、世話をし、かかわっていく。そのなかで一人一人の子どもも変わり、生かされていく。
  目の前の子どもをとらえたこの本の出版も嬉しい。小学校中級以上向き。

文研出版・本体1200円+税
『風景』
後藤竜二作、高田三郎絵

 昭和30年代の北海道。美唄川の近くの村。
  ぼくは小学校5年生。桐組はばらばらにされて他の5つの組に入れられる。桐組復活のために子ども達は血判を押して要求する。
  中学生になる。ぼくの家に季節労務者として福島県の中学校を終わったばかりのカンちゃんが、英語の教科書を持ってくる。カンちゃんはすぐいなくなる。
  ここに描かれている「風景」は「半世紀も大昔の風景」と著者は述べるが、その「風景」には熱い、新鮮な「生命」が躍動している。
それは今に「生きて」今を「生かす」「風景」である。中学以上向き。

岩崎書店・本体1200円+税
『建築家になろう』
樫野紀元著

 「家」は「生命や財産を守ってくれる基地」「家はよい人材、よい環境をつくるもと」「家はよい町をつくり、よい社会をつくるもと」。著者は「家」をこのようにとらえる。これはまさに「人間第一」という尊い考えである。
  次に「人間第一」の「家」をどのようにつくるかと、詳しく丁寧に述べている。家を建てる楽しさが膨らんでくる1冊である。中学以上向き。

国土社・本体1200円+税
『赤い鳥翔んだ』
脇坂るみ著

 「蜘蛛の糸」「一房の葡萄」「河童の話」「ごん狐」「からたちの花」「かなりあ」「たき火」などの文学作品を掲載して、日本の児童文学を大きく発展させたのは鈴木三重吉が創刊した「赤い鳥」である。
  三重吉の子の「すず」はアメリカのミス・エリエット社や、東京スタイル社に入社して、日本のファッション界に新しい流れをつくる。共に「新しい風」を入れた親と子の業績と生涯をまとめた大著であり貴重。高等学校・PTA向き。

小峰書店・本体2200円+税