全盲の中学教師河合純一さんと生徒たちの交流を描いた「生徒たちの金メダル」など読者の心を打つ児童文学を出し、ベルマーク新聞でもたびたび紹介された静岡県舞阪町の「ひくまの出版」(那須田敏子社長)が広島の原爆被爆者や被爆3世の生き様を綴った『夏の花たち』(本体価格1300円)を出版、話題を呼んでいます。
主人公は、半世紀にわたって、広島市内の原爆慰霊碑に献水を続けてきた宇根利枝さん。著者の鈴木ゆき江さんは、3年前に同社から「ヒロシマのいのちの歌」という作品を出したことが縁で宇根さんの「献水供養」を知り、何度も広島に足を運んで書き上げました。
宇根さんは、広島陸軍兵器支廠の託児所で被爆。子どもたちを連れて逃げる途中、原爆の熱線で体を焼かれ、水を求めて苦しむ大勢の人たちと出会いました。「何もしてあげられないが、せめて1杯の水を」と思いましたが、「(原爆の)毒を浴びた水は飲ませてはいけない」といわれ、「末期の水」を飲ませてやることが出来ませんでした。
「どんなに水が欲しかっただろう」。この思いは、ずっと宇根さんの心に刻まれていましたが、10年後の昭和30年、冷たくておいしい湧き水に出会い、慰霊碑に水をささげる「献水」を思い立ちました。以来半世紀。宇根さんは、市内120カ所の慰霊碑を回っては水をあげてきました。
宇根さんのこうした気持ちをくんだ広島市は、昭和49年から、8月6日の平和祈念式典に「献水」の儀式を取り入れました。以来、毎年宇根さんが「献水者」を務めてきましたが、今年からは、宇根さんに共感を覚えた被爆3世のボランティア青年・谷安啓さん(26)に引き継がれました。
前日の8月5日、広島市で出版記念記者会見に臨んだ鈴木さんや「ひくまの出版」の那須田稔会長らは、「被爆者は、年々少なくなり、高齢化も進んでいます。来年は、被爆60年です。次の世代に、原爆の悲惨さを語りつぎ、改めて知ってもらうのは今しかない、との祈りを込めて出版しました。1人でも多くの若い人たちに、読んでいただきたい」と話していました。
「ひくまの出版」への連絡は、電話(053)592・4798、ファクス(053)592・4748へ。
(2004/8/20)
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