長年、ベルマーク新聞で親しまれている「読んでみたい本」の筆者で、児童文学者の鈴木喜代春さん(78)は、彫刻家の阿部誠一さんと一緒に『二人の「みつめる女の子」』を出版しました。これまでに『津軽の山歌物語』『伊能忠敬』『その他のダメな子シリーズ』(全10巻)など166冊を上梓してきました。
『二人の「みつめる女の子」』は、神戸市の元町駅前に建っている2基の少女の銅像の話です。鈴木さんは、銅像の作者・阿部誠一さんと出会い、その創作の過程を目をキラキラ輝かせ、楽しく話していただいたのが創作のきっかけです。
主人公のミナは小学校の3年生の女の子。お母さんが亡くなり、お父さんが仕事で不在の時が多く、寂しさが募って夜遅くなるとコンビで無駄遣いをしてしまう。学校でも友だちに会うたびに『ちょうだい、ちょうだい』と食べ物をしつこくねだり、聞いてくれない友だちには足げりをしたりするので、みんなに嫌われている子どもでした。そんな時、元美術の先生だった阿部さんと出会い、家を訪ねるようになりました。アトリエにある「見つめる女の子」の銅像と向き合って、「女の子」とよく話をしていました。自分の我がままな気持ちを伝え、そして励まされ、だんだん元気を取り戻してきました。阿部さんの指導で、ミナは亡くなったお母さんの「頭像」づくりに挑戦しました。何回も失敗し、イライラしたり、悩んだり、考えて、やっと気に入った作品を作り上げました。阿部さんの家に通いはじめてから、ミナの寂しい心とすさんだ心が、次第に優しさに変わって行きました。
(岩崎書店・本体1300円)
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「本はもう一人のわたし」
人間はだれでも/いまの自分より/つよく、やさしく、かしこい/自分になりたいという/願いをもっている/
本のなかには/自分の願っている/もっと、つよく、やさしく、かしこい/もう一人の自分が/描かれている/
だから 本をよむことは/もっと、つよく、やさしく、かしこい/もう一人の自分と/本のなかで/出会うことだ/
本は、たくさん出版されている/かならず、もう一人の自分が/描かれている本がある
だから/きっときっと/だれでも/もう一人の/自分がいる本と/出会えるのだ/
本を読んで/もう一人の自分と出会って/語りあおうよ/
語りあうことによって/もっともっと/自分がみえてきて/力がわいてくる/本を読んで/もう一人の自分/もう一人のわたしと/出会おう/
鈴木さんは、55年におよぶ教育界での体験から、「時代や社会が変わっても、基本的には子どもの本質は変わらず、どの子どもも生まれた時から、もっと強く、優しく、かしこい自分を」と、願っているととらえています。上の詩は、鈴木さんが子どもたちに贈る「メッセージ」です。
(2003/9/1-2)
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