額装された校歌、書いたのは生徒/三重・尾呂志学園中


(2019/12/05)印刷する

 ベルマーク財団が今年度支援したへき地学校のひとつ、三重県御浜町の町立尾呂志学園中学校(竹本和拡校長、生徒10人)が希望した備品は校歌の額2枚。体育館の前方に飾って、全校集会などで生徒が見ながら校歌斉唱をするものです。これまでは模造紙に印刷したものを貼っていました。今回届いた真新しい額に収められたのは、一人の生徒が筆で書き上げた校歌でした。

尾呂志バス停近くにあった案内板
校舎入り口に学校名を書いた看板


 書いたのは2年生の芝芽衣(しば・めい)さん。11月17日にあった尾呂志文化祭で、竹本校長から感謝状を手渡されました。会場の体育館には、併設されている尾呂志学園小学校(児童7人)の児童と保護者、そして100人ほどの地域の方々も集まり、感謝状が読み上げられ、たくさんの拍手が鳴り響きました。

 竹本校長が「通っている中学生が一人で校歌を書き上げたのは、日本で尾呂志学園だけじゃないかなと思っています。本当にありがとう」と労うと、芝さんは、はにかんだような、かわいらしい笑顔を見せてくれました。竹本校長はさらに、ボランティアで額の設置をしてくれた地域の方にも感謝の意を伝え、額はベルマーク財団の支援で購入したことも紹介されました。

中学校校歌
小学校校歌
芝芽衣さんに感謝状が手渡されました

 子どもが6才の6月6日から習い事を始めると上達する、と言い伝えのある「稽古始め」。その日から書道を習い始めたのが芝さんでした。同じく書道を習っていたお母さんの陽子さんは「縁起を担いでその日にしました」と振り返ります。こうした期待通りにその実力は大きく花開き、芽衣さんは昨年度のJA共済小・中学生書道コンクール(三重県下JA、JA共済連三重主催)では金賞の三重県知事賞、今年度は銀賞の三重県教育委員会賞を受賞しました。現在は「六段」の段位を保持しています。

 陽子さんによると、芽衣さんは「書道がとにかく大好き」。以前はピアノも習っていましたが、「私は書道がしたい」という本人の強い意志により、現在は書道に専念しているそうです。

 そんな芝さんでしたが、竹本校長から「校歌を書いてみないか」と声をかけられたときは、「ちゃんと書けるかな」と、とまどってしまったそうです。同じ尾呂志学園ですが、併設校であるため、小学校と中学校の校歌は別々で、2つの作品を仕上げる必要がありました。そのため夏休みに毎日250~300枚の半紙を使い、練習を重ねました。漢字の方が書きやすいそうで、歌詞を書く上では「同じ種類のひらがなを何回も書かなければならなかったこと」に苦労したそうです。最後に清書をする際にはお父さんも協力。大きな紙を載せるためのテーブルを、角材を使って手作りしてくれました。

 芽衣さんが精一杯書き上げた校歌の歌詞。文化祭の開会式では、小中併せて17人の子どもたちが、新しい額を見ながら大きな声で斉唱しました。

書いた作品をバックに、芝芽衣さん
校歌を書き上げた芝芽衣さんとお母さんの陽子さん
児童・生徒が元気よく校歌斉唱

 尾呂志文化祭は、児童・生徒が日頃の学習成果を発表する場です。作文や読書感想文の読み上げ、劇や合奏・合唱の披露などが続きます。また、教職員による合唱や、地域の方による三線やピアノ、ギター演奏を聴くプログラムもありました。

 修学旅行で東京に行った時の様子をスライドにまとめた発表もあり、「田舎者には都会の建物がどれも一緒に見えました」「原宿の竹下通りを何度も往復して有名人を探しましたが、見つかりませんでした」といったコメントが笑いを誘っていました。昼食のカレーライスとして来場者にも振る舞われたお米は、生徒たちが収穫した地区特産の「尾呂志米」でした。

 作文発表では、御浜町役場であった町全体の「中学生議会」に参加した生徒が登壇。尾呂志学園は今年、創立以来初めて小学校に新入生が入学しなかったそうで、学園の児童・生徒が減ってきていることを危惧し、「尾呂志学園がなくなってほしくない」という思いから、尾呂志地区の人口を自分のテーマにしたそうです。議会では「尾呂志地区の魅力を情報発信していくことや、空き家のリフォーム、町営住宅を建てるなどの環境作りをしてほしい」「企業を誘致して仕事を確保してほしい」と具体的な提案をすることが出来たそうです。

小学生がダンスを披露
中学生がダンスを披露
作文の発表

小3の作品「おろし地図」
小4の作品「尾呂志神社の手水舎」
教職員も合唱を披露

 小学生たちは、白雪姫をベースとした劇「鏡の女王~尾呂志編~」を上演しました。「あなたの名前を知っているのは『広報みはま』に載っていたから」「岩清水豚のとんかつと尾呂志米のごはんのセットは最高だよね」などとローカルなネタが盛り込まれ、観客からはクスクスと笑い声が聞こえてきました。

 盛りだくさんの発表が終わった15時頃には閉会式が行われました。竹本校長は子どもたちに「今日のために仲間と力を合わせて練習や準備をしてきた成果をとてもよく発揮できていました」と言い、「本番までは楽しいだけでなく、練習が難しいなとかつらいなと思うこともあったかもしれない。全てやりきったことを自信にしてください」と語りかけました。

昼食は、自分たちで育てた尾呂志米を使ったカレーライス
おいしいね
挨拶をする竹本和拡校長

 昼食の後片づけをしていた保護者の皆さんに尾呂志学園の魅力をたずねました。「少人数なので、勉強をわかるまで教えてくれる。塾に行く必要がない」「子どもに寄り添ってくれる先生が多い」という声や、「地域の人に協力してもらって学べる授業がある」という特色が聞かれました。

 同校は、平成20年5月1日にコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度を導入している学校)に指定されました。保護者や地域住民などが学校と教育目標を共有し、「地域とともにある学校」を目指す取り組みです。文部科学省は、公立学校すべてがコミュニティ・スクールになることを目標とし、平成29年から学校運営協議会の設置を努力義務としています。

 学校名が「尾呂志学園」となってから今年で17年目。竹本校長によると、コミュニティ・スクールが話題になる前の、学園創立当初から「尾呂志の保護者・地域の人・教員がみんなで子どもたちを見守る学校というコンセプト」があったのだと言います。この日、舞台に立つ子どもを見つめる来場者の優しいまなざしがそれを物語っているようでした。

児童・生徒17人で記念撮影


 尾呂志へは、JR紀勢本線の熊野市駅まで、名古屋発の特急ワイドビュー南紀(1日4本)で行き、駅前からバスに乗ります。途中でさらにバスを乗り継ぐと、学校に一番近い尾呂志バス停に到着します。

 地区を紹介するウエブサイトがあり、そのタイトルは「恋しよおろし」。標準語の「おいでよ」を表す方言「来いしよ」とかけています。トップページの背景は、大きな朝霧が流れてくる写真。これが有名な「風伝おろし」です。山の向こうの盆地で発生した霧が熊野古道の風伝峠を越えて、尾呂志地区に流れ込むのだそうです。

 また、校区のひとつである坂本地区は、天然記念物にも指定されている紀州犬の発祥の地といわれています。中学校に通う生徒の祖父で紀州犬ブリーダーの亀田昭治さんが貴重な写真を提供してくださいました。あわせてご紹介します。

大切に育てられている紀州犬たち(亀田昭治さん提供)
(亀田昭治さん提供)
風伝おろし(亀田昭治さん提供)

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