子どもの頑張りが希望の光に


(2016/10/18)印刷する

 岩手県南東部の陸前高田市を訪ねたのは、台風10号で県の中、北東部に大きな被害があった9月中旬です。

 気仙小学校は、岸辺に「奇跡の一本松」が立つ広田湾を見下ろす高台にあります。ダンプカーや大型トラックがひっきりなしに国道を行き交います。

仮設住宅が建つ校庭の片隅で鉄棒を練習する子どもたち

 「通学が、心配ではありませんか」。まず聞いたのは、このことでした。

 市発注工事は通学時間帯を避ける取り決めがありますが、国、県の工事に比べて比率は高くありません。菅野稔校長は毎朝、校門に立って子どもたちの登校する姿を確認しています。

 仮設住宅で暮らす子も14人いて、中には遠方から通う子もいるため、25人がスクールバス通学です。徒歩通学は35人です。

 震災の時、先生の素早い判断で、児童92人全員が無事だった気仙小。転居したり、親戚宅に移ったりして、新学期には48人に半減しました。浸水被害のため、校舎は取り壊されて跡形もありません。地域一面が造成工事の土砂置き場になっています。今使っているのは2013年に統合した旧長部小学校の校舎です。震災前は両校で189人の児童がいました。

 1階から鍵盤ハーモニカの音が聞こえ、仮設住宅が並ぶ校庭の隅っこでは先生に手伝ってもらって、鉄棒の練習をしています。国語や算数の授業も一見、何の変わりもない学校の日常です。

 「あの先生も、震災で身内の方を亡くしています」。子どもも先生も誰かしら、大切な人を亡くしています。

鍵盤ハーモニカの練習。一人ひとりに目が行き届きます
「自分たちの力ではなく『他力本願』で、いただきました」と50万点の感謝状を手にする菅野稔校長=以上、気仙小学校

 地元育ちの菅野校長も家族は無事でしたが、気仙川沿いにあった自宅を流されました。

 「心のケア」のため、月に2回ずつ、スクールカウンセラーと巡回相談員が学校を訪ねます。子どもだけでなく、先生方や保護者にも対応します。相談員は午前10時前から午後5時近くまで、子どもたちと遊んで、気付いたことや、気がかりなことを先生に伝えます。

 ベルマーク財団からの支援は、先生方と相談して、算数ブロック、ゴムハードル、アルファベットカードといった教材にあてました。授業の合間の休み時間には、運動場で遊べないために体力不足にならないように、ドッチビーを楽しみ、校舎内に歓声が響きます。

 ベルマークを集めることができる環境ではありませんが、他校や企業から贈られる「友愛援助」のおかげで今年9月、50万点を達成しました。

 「教職員も定数をやや上回る配置が続いていて、助かっています」と菅野校長は感謝を口にします。

 震災から5年。子どもたちの多くは震災前の記憶が、そもそもありません。「家」と言えば、仮設住宅、大人から見て「不自由」を、当たり前のこととして受け入れています。

 「子どもたちは、一人ひとりに与えられた環境を受け止め、頑張るしかありません。実際、よく頑張っていると思います」

                        ◇

生徒の頑張りにこたえたい、と校長自ら作った「祝東北大会出場」の懸垂幕の前に立つ吉家秀明校長

 市立第一中学では、吉家(きっか)秀明校長が資料作りをしているところでした。母校の大学で震災についての講演を頼まれたそうです。

 第一中学校は3年目、定年のため、教員生活最後の年になります。

 「生徒には、学校がすべてです」

 遊ぶ施設もない、家もない。校庭の仮設住宅で暮らす生徒もいます。夏は室温が35度近くまで上がるので、友達にも会える学校に出て来ます。

 環境も練習時間も十分ではない中、さまざまな部活動で生徒は成果を出しています。県中学総合体育大会で、女子バレー部は県大会で1セットも失わずに20年ぶりに優勝して、東北大会に出場しました。

 「練習時間の不足は気持ちで補った」。選手のそんなコメントが新聞に載りました。柔道部も団体と、個人戦2人が東北大会に出場しました。

 「先生、あれ、ないの?」

 生徒が聞いたのは、校舎に下がる、祝福の懸垂幕のことでした。業者に頼む予算はありません。布を買って来て2日半、倉庫にこもって、校長が手作りで完成させました。

 特設合唱部には3年生102人のうち65人が手を挙げ、東北大会出場を決めました。バス代だけでも約40万円が必要でした。

 「いろんなことで頑張る一中生」は、休み返上の顧問や教職員、保護者、地域一体となった応援があればこそです。生徒がそのことを分かっている、と吉家校長が手ごたえを感じた光景がありました。

第一中学校の校庭の片隅から旧市街地を望む。市役所、ショッピングセンター、JRの駅舎はすべて跡形もない。遠方は広田湾=以上、越前高田市立第一中学校

 熊本地震の時、早朝から通用門に立ち、生徒が募金を呼びかけていました。激励のメッセージと合唱曲のCDも熊本市の全中学校に送りました。台風10号の被災地への募金も呼びかけました。支えられている中で、感謝と他者を思いやる気持ちが生徒に培われたことを実感しました。

 「教員生活最後の年に、いい思い出をいっぱいくれました」

 先生たちの献身的な頑張りがいつまで続くだろう、学習面もそろそろ力を入れないといけない、という思いもあります。ベルマーク財団からのバス代支援はまだまだ必要です。

 「生徒への支援が、地域の支援にもなっています」と言います。

 中心市街地が跡形もなく消えて、「壊滅的」と表現される陸前高田市の被害。中学生の活躍が、厳しい現実に立ち向かう希望の光になっています。

広田湾の岸辺に立ち、護岸工事を見守る「奇跡の一本松」

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こどもがよろこぶ・かるい学習帳B5国語17行

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